まわりのアメリカ 3月<ワシントンDC花見編>
3月28日(土):ずいぶん前からワシントンDCの桜を見に行こうと決めていたので,チャペルヒルで桜が咲き始めてからは,桜の開花情報などをチェックしたりして,結構そわそわしていた。日本のように,桜前線といったような全国的な予報はないので,ワシントンDCの桜祭りのウェブサイトを見つけて,様子をうかがっていたところ,今週末あたりが一番の見所だろうということ。およそ半年ぶりのワシントンDCだ。
さっそく9月に泊まった,場所的にも便利なアーリントンのエンバシースィートにインターネットから予約を入れ,準備OK。ワシントンDCにいたことのある隣の研究室のW先生には,「未だに日本人は理解できない。おまえも花見なんてするのか?」とからかわれながらも,一番桜がよく見える場所を教えてもらった。今回は,家内がお得なショッピングセンターや美味しいレストランなどについても十分にまわりからいろいろ教えてもらったらしく,彼女も下調べに抜かりない。一泊二日の予定ながら,前回よりも充実したものになりそうだ。チャペルヒルからワシントンまでは,I-40→15-501→I-85→I-95と行き方もシンプル,このあたりの経路にはだいぶ慣れてきた。
バージニア州都リッチモンドを過ぎて約一時間ほど,もうワシントンDCにほど近いデイル・シティ(Dale City:I-95のExit156)にポトマックミルズ(Potomac Mills)という巨大なファクトリーアウトレットがあると聞き,まず行きがけにこちらに寄ることに。フリーウェイから見るとワシントンDCに向かって左側に大きな塔のような看板が立っているが,ここを目指して行ってしまうとこの下には何もないので,その手前の車がたくさん停まっている駐車場を目印に行くこと。車を駐車したら,まず焦らず,落ち着いて自分の停めた場所を覚えること。それほどこの駐車場は広い。
200店舗以上というこの建物の広さは,半端ではない。買い物上手になるには,消費税のことも考えなければいけないようで,ノースカロライナの6%に対して,このファクトリーアウトレットがあるバージニア州は,4.5%。州境に住んでいれば,消費税の安い州に買い物に行くのは,常識だとのこと。大きな買い物をすれば,特に消費税の差が効いてくる。アメリカで通販が流行っているのもやはり消費税が関係している。州外から通信販売でものを買う場合,消費税はとられないという制度があり,同じものを自分の州で買うよりは,通販で買った方が,たとえ定価ベースの買い物だとしても,消費税の分だけは安くなる計算。そのかわり残念ながら通販業者は,発送手数料なるものをチャージするが,たいてい税金分よりは安くなるように設定されている。消費税が無いという州もあるそうだ。
チャペルヒルをのんびり出たので,いろいろ見て回っているうちに夕方になってしまった。ここのショッピングモールはとても一日では見きれないので,エントランスに向かって左側半分だけ見て,また明日に回すことに(桜も)。ここは,かなり有名なところらしく,ワシントンDCからもツアーバス(片道8ドル,往復12ドル)が出ているほど。ポトマックミルズには,トライアングル付近のショッピングモールでは見られないようなブランドの店舗が並んでいる。ただし,全てがファクトリーアウトレットでもないらしく,通常の価格で売っているものもあったので要注意。今日見た側には,ベネトン,家具のIKEA,ローラ・アシュレー,ディズニーカタログアウトレットなどがあり,僕らには目新しいブランドが多かった。
夕食は,これもトライアングルエリアの日本人の評判が高いウーレイオーク(Woo Lae Oak)という韓国料理のお店に行った。僕らのホテルのあるクリスタルシティからは,車で5分ほどの距離だ。店の前の駐車場に車を止めると,もうすでに焼き肉の匂いが漂ってくる。部屋にはいると韓国語と日本語が飛び交っている。トライアングルではとても見られない風景だ。おまけに出されたメニューには,韓国料理屋なのに日本語が書かれている。相当な数の日本人がこのお店に来ている証拠だ。日本食のレストランならまだしも,アメリカにある韓国料理のメニューに日本語が書いてあるのは,どうも違和感を覚えてしまう。僕らは,骨付きカルビ,タン塩,石焼きビビンバ,韓国風お好み焼きなどを平らげた。一度は行く価値のある店だと思う。
夜は,テレビでNCAAのバスケットボール観戦。しかし,ノースカロライナ大学は,今日の準決勝でショット,ガードが冴えず,全くいいところ無しでユタ大学に負けてしまった。今期はこれで終了。昨シーズンと同じ成績だ。チャペルヒルでも学生達が悔しがっていることだろう。僕も当然勝つものと思ってみていたので,ちょっとショック。でも今シーズンからヘッドコーチになったビル・ガスリッジは,自分の最初のシーズンにファイナル4まで行くという偉業を成し遂げたことになる。来年を楽しみにしよう。ファイナル4のTシャツが,来週には売り出されることだろう。
3月29日(日):朝は7時に起きて,ホテル自慢のブレックファストを食べて,チェックアウトを済ませ,行動開始。いつの間にか駐車料金を$10取るようになっていて驚いた。このあたりも地価が上昇しているのだろうか?
ホテルの前になぜか,ホットドッグなどで有名なオスカーメイヤーという会社のウィンナーモービルが置かれていた。これはアメリカに6台しかないうちのひとつ。ノースカロライナでは,別の車を見たので,僕らは,オスカーメイヤーづいているのかも。最近HAMACHI!家では,この車のぬいぐるみをget!
ホテルの駐車場に車は置いたままにして,外へ出ると午前10時前なのにすでに暑い。クリスタルシティの地下鉄(メトロ)の駅に向かう。相変わらず地下に降りるエスカレーターの工事は終わっていない。半年前と同じ光景だ。いったいこの国はどういう仕組みになっているのだろう。地下鉄はポトマック川を渡るときは,外に出る。桜が川沿いに見えた。桜が一番きれいに見られるのは,ジェファーソンメモリアル(記念堂)のあるタイダルベイスン(Tidal Basin)のあたりだとのこと。タイダルベイスンは,ポトマック川の水が入り込んでできた大きな池のようなもの。最寄りの駅はスミソニアン駅になる。スミソニアン博物館といえば,セガのバーチャファイターもスミソニアン博物館入りだそうだ。サターンで失敗したセガにとっては,うれしいニュースだろう。
駅に着いたらホロコースト博物館方面の出口から外に出て,インディペンデンス通りをワシントンモニュメントが見える方向(西)に進む。地下鉄から外に出ると方向感覚を失うので,慣れるまでは地図は必須だろう。地図を持っていれば,十字路に立ち,交差する通りの名前を確認すれば自分がどこにいるかはすぐにわかるので,最大でも1ブロックの辛抱だ。どうやらみんな同じ方向に向かっているらしい。桜が見えてきた。桜,タイダルベイスン,ワシントンモニュメント,ジェファーソンメモリアルと揃うと見事な眺めだ。タイダルベイスンのまわりは遊歩道があるが,十分な幅がないので,久しぶりのディズニーワールド並みの人混みだ。桜は少し散り始めていて,桜並木の花吹雪の中をジェファーソンメモリアルに向かって進む。犬を連れて歩いている人が目立つのがアメリカらしいが,ポトマック川の方向を見なければ,ボートも出ているし,これじゃまるで千鳥が淵だ。ここにあるソメイヨシノは,1912年に当時の東京市から3000本贈られたものだそうだ。この陽気のせいか,桜も元気が良さそう。返礼に送られたハナミズキも,東京の小石川植物園で今も花を咲かせているとのこと。
タイダルベイスン沿いに歩いていくと,水際に建つ古代ギリシャ風(イオニア式)の記念館が近づいてくる。けっこう大きい。昨年ワシントンDCを訪れたときには,このあたりには来ていなかったので,ちょうど良かった。ジェファーソンメモリアルの前は,階段になっていて,観光客が思い思いの格好で座っている。ここから見る町の眺めは,ワシントンモニュメントから見るのとまた違った見晴らしの良さだ。中に入ってみると,荘厳な面もちでジェファーソン大統領のブロンズ像が立っていた。
桜も十分堪能したことだし,そろそろ戻ることにした。駅までの間には,印刷局(造幣所),ホロコースト博物館などがある。家内などは気が進まなかったようだが,せっかくなので,ホロコースト博物館(Holocaust Memorial Museum)に入ってみることにした。入り口を入ると空港で見られるような厳重な金属探査とX線による手荷物チェックがある。これはどうしたことだろう?センシティブな話題を扱う博物館では,こういった検査が必要なのかもしれない。ここは,修学旅行のような学生のグループが多いようだ。ホロコーストとは,元々は神への生け贄の丸焼きをさすユダヤ教の言葉だが,転じて1933年から1939年の間にドイツナチによる600万人にものぼるユダヤ人の大虐殺のことをさす。アメリカにもこの犠牲になった人たちの関係者や財産がまだ多数あるらしいのだが,博物館まで作って他国の過ちの世話を焼くのは不思議に思える。人種差別という大きな問題を抱える国だから,他山の石とするためなのかもしれないが,それだったら,アメリカ人がインディアン(ネイティブアメリカン)にしてきたことを,こういう形できちんとしないのは,もっと不思議に思える。
ホテルの駐車場に戻り,帰途についた。昨日半分しかなかったポトマックミルズに再度寄ってみた。昨日行けなかった右半分には,カルバンクライン,エディーバウワー,SWATCH,GAPなどのアウトレットがあった。一番面白かったのは,All Wound upという,動くおもちゃ専門店。僕は,銃を持ってほふく前進する兵隊を購入。娘は蛙が泳ぐ池の前をなかなか離れようとしなかった。
ここからチャペルヒルに戻るのにも5時間かかるので,あまり遅くならないうちにと車に戻ってみると,あれれ?車の様子がおかしい。なんか傾いてるぞ。
タイヤがぺちゃんこだ。あいにくジャッキも持っていない。
でも大丈夫。こんな時のためにAAAのメンバーになっていたのだ。会員証に書かれている電話番号に電話してみる。ノースカロライナのAAAに繋がったようで,ポトマックミルズにいると言うと「なんでそんなところにいるんだ?」と言われた。州が違うと,担当も変わるようだ。バージニアのAAAに繋ぎなおしてくれるとのこと,待つこと3分。フリーダイヤルなので,小銭の心配は要らない。やっとオペレーターが出る。
「ハーイ。私ジェニファーよ。どうしたの?」
「タイヤ,パンクしちゃったんですけど」
「どこにいるの?」
「デイル・シティのポトマックミルズだよ」
「なるべく早く行けるよう頑張ってみるけど,まぁ,3時間かかるわね」
3時間!? 冗談じゃない!
「それはちょっと時間がかかりすぎる。どうにかならない?」
「近くのガソリンスタンドで,助けてもらうのはどう?請求書はこっちに送ってくれればいいから」
「そうか。じゃぁしかたないから,その線でやってみるよ。サンキュー」
このショッピングセンターの入り口付近にガソリンスタンドがあったのは覚えている。娘を抱えて広い駐車場を歩き始めた。500m程先にガソリンスタンドがあった。中へ入ってみる。ヒスパニック系の女性と客らしい男の人が一人いるだけだ。
「パンクしちゃったんだけど,助けてくれない?」
「うちはだめなの。すぐそこに自動車修理工場があるからそこに行きなさいよ」
「OK。サンキュー」
ガソリンスタンドって,簡単な修理もできるところなんじゃなかったっけ?どうやら,そうでもないようだ。日本の常識は,またここでも通用しない。ガソリンスタンドを通り抜けて,彼女が指さした方向へ100m程また歩く。それらしいところに来たが,人の気配が全くしない。そうだ。今日は日曜日だ。途方に暮れる。いや,まだ近くにガソリンスタンドがあったはずだ。さらに方向を変えて500m程歩いてみる。別のガソリンスタンドが見えてきた。オイル交換もやっているらしい文字も見える。ここなら大丈夫だろう。だが,近づいてみると,シャッターが閉まっている。うーん。ここも日曜日はダメそうだ。スタンドの真ん中のボックスに人がいる。ダメモトで聞いてみる。
「パンクしちゃったんだ。助けてくれない?」
「見りゃ,わかるだろ?俺,一人しかいないんだ。助けてあげたいんだけどね。」
どうして,ガソリンスタンドで,タイヤ交換ぐらいできないんだ?!どこも一人で営業しているし,日曜日は,最悪の条件のようだ。暑いし,自分で探すのは,どうやら時間の無駄であることがわかってきた。まぁ,いい。このガソリンスタンドからまたAAAに電話をかけて,やっぱり助けてもらうことにした。またノースカロライナのAAAからやり直しだ。バージニアのAAAに繋がるまで,やはりかなり待たされる。
「どうしたの?」
「パンクだ。助けてくれ」
「何言ってるのか,全然聞こえないんだけど」
「ポトマックミルズでパンクしたので,助けて欲しいんだけど」
「電話が遠くて聞こえないわ。回線が悪いのかしら」
声を荒げて「聞こえる?」
「全然」
おいおい,聞こえてるんじゃないか?! らちがあかないので,「わかった。また後で電話する。」ガチャン。
おいおい,聞こえてるんじゃないか?!
らちがあかないので,「わかった。また後で電話する。」ガチャン。
仕方ないので,ポトマックミルズまで戻って,電話をかけ直すことに。結局,放浪の旅に出たことで,1時間を無駄にしてしまった。これなら最初に来てくれるよう頼むべきだったが,後の祭り。なんとかAAAが来てくれることになったが,やはり最大で3時間待ちだという。それでもいいから早く来てくれるよう頼んで,電話を切った。既に6時近い。アメリカの日曜日のショッピングセンターは,どこも早く閉まる。ポトマックミルズも通常は9時まで営業しているが,今日は6時まで。ウィンドウショッピングをしながらAAAを待つこともできない。フードコートも同じだ。幸い娘は,疲れて寝てしまっている。
モールのメインエントランスで腰掛けて待つことに。タイヤ交換をしてくれるところなんて,簡単に見つかると思ったのに,甘かった。抱えきれないほどの買い物を持った客達も次々と家路につき,目の前の駐車場も残っている車が点々とあるだけになってきた。だんだん暗くなってきたが,駐車場もライトで明るく照らされているし,僕らがいるところもライトアップされた大きな看板の下なので,思ったほど危なくはなさそうだ。そういえば,面白いものを見た。客が使ったショッピングカートは,広い駐車場のそこここに散らばっているのだが,これを閉店後集める係がいる。彼らは自分の車で,駐車場を縦横無尽に走り回り,車の窓から手を伸ばしてカートを引っ張ってくるのだ。
モールの店員達も,もうほとんど帰ってしまったようだ。もうすぐ8時になる。後どれくらい待つのだろうか?と思ったところに赤いトラックがやってきた。この車にAAAのマークなど付いてないが,聞いてみる。
「AAA?」
「そうだ」
「来てくれてありがとう。車はこっちだ」
助かった。これで帰れる。
「今日は,なんだか混んでてね。待たせたな」
結局,タイヤの補修ではなくて,車の中に積んであったテンポラリータイヤを履かせておしまい。
「地元に帰ったら,タイヤを修理しなよ。直ると思うよ」
ずいぶん年輩に見える白髪のおじさんで,受け答えは素っ気ないが,仕事には忠実なタイプのようだ。やっと帰れるのがうれしかったので,チップを10ドル渡した。パンクもフリーウェイなんかを走っているときじゃなくて,よかった。電話も近くにあるところだったのは,不幸中の幸いだろう。自分は,AAAのお世話にならずに終わりそうだと思っていたのだが,まぁ,いい体験をしたと思うことにしよう。
やっとフリーウェイに戻って,少しスピードは抑え目に運転した。車の数も昼間に比べるとだいぶ少ないが,トラックが多くなるのは,日本と同じようにやはり夜の方が効率がいいのだろう。
アパートに着いたのは,すでに午前1時だった。夕食もろくにとらなかったので,出前一丁を胃に流し込んで,眠りについた。長い一日だった。
翌朝,通勤途中で見たチャペルヒルの桜は,もうすでに散ってしまっていた。
メールはこちらへ